『ラ・ラ・ランド』は、アメリカのミュージカル映画で、日本では2017年に公開されました。主演のエマ・ストーンは、この映画でアカデミー主演女優賞を受賞しています。『ラ・ラ・ランド』を観ると、『シェルブールの雨傘』を下敷きに現代版アレンジをしているように思えます。『シェルブールの雨傘』は1965年のフランス映画で、第17回カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得しています。 全部のセリフがフランス語で歌われ、お洒落な雰囲気で、音楽も変化に富み、飽きさせません。どちらの映画も、愛し合う恋人同士が運命により別れてしまう話です。両方の映画を、次の4つの視点で、それぞれ比べてみました。
映画『シェルブールの雨傘』で特に目を引くのは、画面のカラフルさです。衣装から小物、雨傘はもちろん壁紙に至る細部にまでパステルがかった鮮やかな色彩が使われ、お洒落な雰囲気です。主演のカトリーヌ・ドヌーヴの完璧すぎる美貌は、まるでセットの一部となって動く人形のようにも見えます。同様に『ラ・ラ・ランド』もカラフルです。衣装に原色が使われているため、よりポップな感じで活気があります。特に、二人で踊る時にミアが着ている黄色のドレスが印象に残ります。色彩心理では、黄色は光や太陽を表すそうです。膨張色でもある黄色のドレスを、ミア役のエマ・ストーンのように着こなせる人は少ないでしょう。ちなみに「ラ・ラ・ランド」には「現実離れしたおとぎ話」という意味があるそうです。そう言われてみれば、非日常的なカラフルさ、踊りのシーン、風景の撮影までが、確かにメルヘンチックです。人生において、恋愛や夢を追いかけている時は、毎日が充実し変化に富むので、カラフルな時期と言えるでしょう。だから、ラストシーンは、どちらの映画もヒロインが黒っぽい服を着ていて、周りも落ち着いた色合いです。おとぎ話は終わり、主人公が地に足を付けて現実を生きていることが分かります。どちらの映画も、主人公の気持ちを色使いでも巧みに表現しているのです。
『シェルブールの雨傘』の同名の主題歌は、ミシェル・ルグラン作曲ですの哀しげなメロディーです。ジュヌヴィエーヴが歌う、フランス語の1番の歌詞です。切ない気持ちが伝わってきます。Mais je ne pourrai jamais vivre sans toi .je ne pourrai pas, Ne pars pas, j'en mourraiJe te cacherai et je te garderai.Mais, mon amour,ne me quitte pas!いやよ、あなたなしでは生きられない無理。行かないで、私、死んでしまうあなたを隠して、あなたを守るわ いやよ、愛しい人、行かないで!恋人が戦争に行ってしまうので、行かないでと必死に懇願している歌です。情熱的な半面、依存タイプの愛です。一方、『ラ・ラ・ランド』の主題歌は『another day of sun』です。映画のオープニングで、高速道路上で、たくさんの人達が歌い踊る楽しい場面に使われています。見ているだけで、こちらも踊りたくなるような、明るいリズミカルな曲です。ハッピーな雰囲気があるので、結婚披露宴の入場などにも使われています。歌詞が結構長いので、曲のサビの部分の英語の歌詞と意訳を表記します。Climb these hillsI'm reaching for the heights and chasing all the lights that shineand when they let you down you'll get up off the groundcause morning rolls around and it's another day of sun. 丘を登って 高みへ手を伸ばし 輝く光を追いかける 落ち込んでも 立ち上がる 朝が来るから 違う太陽の日が (意訳)この部分の歌詞は、ラブソングとは言えません。まるで、アスリートへの応援歌のようです。ゆずの『栄光の掛け橋』や『虹』とテイストが全く同じです。この曲は『夢を追いかける人達の歌』だったのです。そして、この歌詞は映画の恋人達をも象徴していたのです。
『シェルブールの雨傘』では、恋人たちの別離の原因は、戦争です。戦争による兵役に行ったギイを、妊娠したジュヌヴィエーブは待てずに、お金持ちの年上の男性と結婚してしまいます。未婚の母として子どもを生み育てるのは今よりも難しい時代で、社会情勢が原因の一つとも言えます。でも、『ラ・ラ・ランド』では、2人を阻むのは夢です。夢を追いかけることで、二人の距離が離れていきます。ミアが女優になる夢を常に応援していたセブは、成功への起点を作ります。でも、それが別離へのターニングポイントとなります。何とも皮肉です。
映画館で『ラ・ラ・ランド』を初めて観た時は、愛し合っていた二人の別離は、とても残念に思いました。でも、しばらくしてから、もう一度観てみると、印象が180度違っていました。これは、夢を叶える物語として見れば、完璧なハッピーエンドだったのです!ミアは有名女優になり、セブは自分のジャズバーを持ち、それぞれ困難な夢を実現させていたからです。もし、片方だけ夢が叶う、または両方叶わないパターンなら、二人の関係は悪化し苦い別離で終わるでしょう。一方『シェルブールの雨傘』も、「自分のガソリンスタンドを持ちたい」と言っていた男はオーナーになります。また、映画公開の1964年を考えれば、女性がお金持ちの男性と結婚出来るのは、成功(幸運)と言えるでしょう。だから、どちらも、恋愛映画としては悲しい結末ですが、キャリアという視点から見れば成功物語だったのです。特に『ラ・ラ・ランド』は、女性が自分の力で夢を叶える現代版シンデレラストーリーです。夢は白馬の王子様ではないのです。王子様さえも踏み台にして夢を実現させるという、現代的で強い女性なのです。ラストシーンは、どちらの映画も、二人が偶然に再会する設定になっています。『シェルブールの雨傘』では、内心は動揺しているのに、二人とも感情をほとんど表しません。大人の対応です。二人が表面的会話のあと、何事もなかったかのように元の生活へと戻っていく姿は、余計哀しさを感じさせます。『ラ・ラ・ランド』のラストでは、二人は会話は交わさないものの、目配せで一瞬だけ心を通わせます。ミアは「こうするしかなかったの。」セブは「いいよ、わかってるよ」と目で優しく言っているように見えます。セブが、ミアの歩んだ道を肯定し陰ながら応援していた、と感じさせるこの部分は、とても粋な感じがします。それが出来るのも、セブ自身も自分の歩んだ道に満足していて心の余裕があるから。別れていても、(別の)夢を追った同志愛という形で二人が繋がっていたというラストは、前向きで元気が出る映画です。 ミント音楽教室
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