バラード第1番ト短調op.23は、ショパンが作曲したピアノ曲です。ショパンは、ポーランド出身のロマン派の作曲家で「ピアノの詩人」と呼ばれています。バラードというのは、フランス語で「物語」のことです。ショパンのバラード4曲のうち、最初に書いた曲が第一番です。この曲は、フィギュアスケートの羽生結弦選手が平昌オリンピックで使い、一般に知られるようになりました。メランコリーなメロディーは、ショパンらしさに溢れ、不安定で漂うような雰囲気は曲の魅力にもなっています。バラード第1番は、ピアノを本格的に目指す人達にとっても憧れの曲です。繊細で華やか、しかも格好良さもある派手な曲だからです。でも、楽譜は16ページ、演奏時間は10分近くの手強い曲です。表現力とテクニックの両方が要求されます。物語なので、自由に情景をイメージして弾く(聴く)といいでしょう。曲の持つ独特なうねりを感じましょう。曲の構成は、暗い部分と明るい部分が交互に現れ、最後は激しくなって終わります。でも、フィギュアスケートのショートは2分50秒以内という規定があるため、曲が大幅にカットされています。残念なのは、明るい方のメロディー(3回登場)が全カットされていることです。その部分(第2主題)は、ショパンの曲の中でも、最も美しいメロディーの1つだと思います。胸の高まり(または希望の光)のようなメロディーに合わせて、羽生選手が優雅に滑るのも見たかったです。ぜひ完全版を聴いてください。美しいメロディーに心奪われるはずです。
私は、フィギュアスケートを観るのが好きです。羽生選手は、スケートの技術が高いだけでなく、リズム感が良く、曲をとらえる感性も優れています。バラード第1番は、羽生選手にピッタリだと感じます。それは、羽生選手とショパンが似ているからです。では、2人の共通点を6つ挙げていきます。
2人とも、顔立ちが整っていて細身です。羽生選手は172cmで56kg、ショパンは推定170cmで45kg(細い!)です。羽生選手は、手足が長くてスタイルがいいです。細身のせいで、どこか中性的な印象を与え、少年のようなあどけなさも人気の秘密です。演技後のスケートリンクは、ファンから投げ込まれたプーさんで黄色く染まり、人気の高さが一目瞭然です。ショパンも、細身の身体を生かす仕立ての良い洋服にこだわり、お洒落に気を使っていたそうです。ちなみに、虚弱だったショパンの演奏は、力強い音が出せないものの、繊細で美しい音だったと言われています。
羽生選手は、中国でも人気があり、王子様のよう、と言われているそうです。インタビューの受け答えからは、礼儀正しさ、聡明さ、育ちの良さを感じます。ショパンも品があり、繊細な容姿と穏やかな言動で、個人レッスンをする貴族の女性達から人気がありました。品というのは、家庭環境にも左右されます。どちらも、教育に熱心な両親の元で育ちました。
羽生選手は、ビールマンスピンなど、他の男性のスケーターが出来ない技をやっていて、とても柔軟性があります。以前、ピアノ雑誌の付録に、ショパンの原寸大の手の写真がありました。私の手を合わせてみると、さほど変わらなくて驚きました。男の人としては、小さめで指も細めでした。でも、ショパンの曲は、和音やオクターブなど手が小さいと弾けないため、指の間が大きく広がるタイプだと思います。指と身体の柔軟性は比例するので、ショパンの身体も、かなり柔らかかったと推測出来ます。
羽生選手が、喘息だったため、ホコリの少ない室内で出来るスポーツとしてスケートを始めたのは有名な話です。ショパンも喘息でした。当時は、喘息の薬も無かったので、発作の時などは、さぞつらい思いをしていたと思います。バラード第一番の後半で、羽生選手がステップをする激しい部分は、心臓が破れそうなほどキツイそうです。楽譜では、この部分には、Presto con fuoco (プレスト コン フォーコ)と書かれています。Prestoとは急速に、con fouco は火のように(熱烈に)という意味です。ここは、ピアニストにとっても、息継ぎをせずダッシュするような場所で、部分練習を繰り返すと汗をかくほどです。何かに挑み続けた末に息絶えるような終わり方からは、運命から逃げられない業のようなものを感じます。喘息というハンディを抱えながら、アスリートとして挑戦し続ける羽生選手の大変さは、計り知れません。ショパンも、筋骨隆々の丈夫な健康や身体だったら、このように繊細で激しい曲は書けなかったでしょう。
ショパンは、ポーランド出身でしたが、祖国を出て、パリで生活をしていました。当時のポーランドは、ロシア軍などの他国に侵略され不安定な情勢で、ショパンは心を痛めていました。祖国への想いから、ポーランドの民族音楽や踊りを取り入れた曲(ポロネーズやマズルカ)を沢山作りました。ショパンは音楽で祖国への貢献をしていたのです。羽生選手も、東日本大震災で自宅も被災し、スケートに専念して、平昌オリンピックで金メダルを取りました。羽生選手の言動や金メダル獲得は、被災者のみならず日本中の人々に勇気を与えました。
羽生選手が時々見せる鋭い眼光、勝負に掛ける熱い思い、強気な発言は、芯の強さを感じさせます。ショパンも、ロマンチックな曲以外に革命のエチュードや英雄ポロネーズのような激しい力強い曲も作っています。ショパンの曲からは、繊細さと激しい情熱の二面性を感じます。ショパンは、一般の人の前では穏やかでしたが、身近な人の前では激しい性格も見せていたそうです。羽生選手も、プーさんが好きという優しげな部分と、競技にかける情熱とのギャップがあります。このように、この2人は、時代や活躍する場所は違えど、共通点が多いです。役者でも、モデルに似ていると役が乗り移りやすいと言いますが、皆さんは、どう感じますか? ミント音楽教室
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