G線上のアリア
バイオリンは4本の弦が張られ、写真の一番上から、G線、D線、A線、E線と呼びます。G線の弦は一番太く、開放弦は、ソの音(ドイツ音名でG)です。
テレビドラマ『G線上のあなたと私』は、バイオリンを弾く人たちの人間模様が描かれています。このドラマでは、婚約破棄された主人公が『G線上のアリア』を偶然聴いたことから、話が展開していきます。私は、ピアノ専攻ですが、高校生の頃にバイオリンを弾く友人の伴奏を何度か担当したことがあります。最初は、勉強のために音源を聴いていましたが、だんだんとバイオリンが好きになり、曲を沢山聴くようになりました。その後、バイオリンも習いました。でも、見るのと弾くのは大違いでした。弓を持つ右手は、力の掛け方やスピードのコントロールが難しく、角度が崩れるとギギーと鳴ります。左手は、弦を押さえる位置が数ミリずれただけで、音程が外れてしまいます。左手で押さえた弦が指に食い込みます。全然、思い通りになりません。バイオリンは、美しい音を出すまでに時間がかかる楽器なのです。弦楽同好会にも入り、パッヘルベルの『カノン』などを弾きました。みんなと合奏するのは楽しい経験でした。ドラマの話に戻ります。主人公の也映子を演じる波留さんは、眼鏡姿がとっても似合っていて、可愛いです。また、ドラマの設定のように、バイオリニストはスリムな人が多いです。ふくよかな人は、あまり見たことがないです。弾く時に、左手で押さえた弦の場所を見るために寄り目気味になったり、不安定な立ち姿などは、初心者あるあるです。ちなみに、バイオリニストは、首とアゴでバイオリンを支えるので首にアザ(通称バイオリンだこ)が出来ます。それを見れば、本人の練習量や腕前が一目瞭然なのだそうです。もちろん、アザの色が濃い程、練習している証拠です。皆さん、もし、バイオリニストに会う機会があったら、左首筋のバイオリンだこに注目です!【関連記事】●バイオリンの初回のレッスンで驚いたこととは?https://www.mintpiano.net/blog/73530/●すごいぞ!みやぞん!イッテQ!のバイオリンhttps://www.mintpiano.net/blog/45192/
ドラマ『G線上のあなたと私』より。
G線上のアリアは、ドイツの作曲家のヨハン・セバスチャン・バッハが作りました。G線とは、バイオリンの4本の弦のうちの最低音の弦の名前です。G線の上で旋律が弾けることから、『G線上のアリア』と言われるようになりました。ドイツ語ではGをゲーと読むため、クラシック関係の人は、更に短くして『ゲーセン』と呼ぶこともあります。でも、ゲーセンだとゲームセンターと思うかもしれないので、一般の人には『ジーセン』の方が分かりやすいです。正式名称は、『管弦楽組曲第3番ニ長調BWV1068より第2曲アリア』です。このように、曲名が長過ぎるので、一般的には『G線上のアリア』または『G線』と呼んでいます。BWVとは、バッハの作品番号の名称ですが、1068番とは多作です。バッハは、たくさんの作品を作っているのですね。ちなみに、管弦楽というのはオーケストラのことで、アリアとは旋律的な独唱曲のことです。人気があるので、ソロ曲としてバイオリン以外の楽器でも、よく演奏されます。
G線上のアリアは、安眠やリラクゼーション効果をうたうヒーリングミュージック集などに必ず入っている曲です。でも、残念なことに、私にとってはヒーリング音楽にはなりません。ウェディングの仕事で必ず弾く曲だったからです。その当時の式場スタッフ達の緊張感を思い出してしまいます。しかし、年を重ねて気付いたのは、G線が葬儀でも使われていることです。式の始まる前に静かに流れています。ドイツから遠く離れた日本での冠婚葬祭で、自分の曲が頻繁に使われているなんて、お墓のバッハもビックリですね。結婚式とお葬式の両方に使える便利な曲というのは、他を探しても見当たりません。曲に神聖さと普遍性があるからでしょう。例えば、ブラッド・ピット主演のサスペンス映画『セブン』で流れるG線は、嵐の前のような不吉さを感じさせます。一方、『Sweet box』によるG線のアレンジ曲『everything's be all right(すべて大丈夫)』は、元気な応援歌風です。このように、様々に使用されるG線上のアリアは、音楽界のオールラウンダーと言える程の便利な曲です。この曲には、不思議な透明感があり、BGMとして引っ張りだこです。もし、著作権が切れていなかったら、クラシック部門の印税額第1位は、この曲に違いありません。
音楽室でお馴染みのバッハの肖像画。白い髪の毛は実はカツラ(当時は正装)。当時はオルガニストとして有名でした。
G線上のアリアは、始まり方も実にユニークです。9拍も続く長い音符から始めるなんて、凡人には思い付きません。そよ風が抜けるような、またはフゥーっと息を吐き出して安堵するようなフレーズが、心地好さを運んできます。でも、この曲の影の立役者は低音です。低音の動きがメロディーをより魅力的にしているのです。普通の曲は、メロディーと伴奏という役割分担がハッキリしています。主役と脇役のような関係です。ところが、バッハは、複数のメロディーを同時に動かしていく『対位法』という作曲技法を使っています。イメージとしては、A、B、C、Dが同時に話している感じです。複数のメロディーを上手く組み合わせるのです。ピアノ曲に限って言えば、バッハはコスパが悪いです。内容が難しくテクニックが必要なのに地味だからです。バッハの平均律のフーガのように、緻密に書かれた設計図のような楽譜を覚えるには、とても時間が掛かります。しかも、せっかく暗譜出来ても、技術や曲の解釈に余裕が無いと、ただのつまらない演奏になりやすいのです。バッハの作品では、他の作曲家の作品のような、雰囲気での一時的な目眩まし(ごまかし)が全く効かないのです。ただ、バッハを上手く弾きこなせた時には、他の作曲家とは違う何とも言えない恍惚感を伴います。不思議な感覚です。また、アップテンポの曲は、ジャズに通じるような生き生きとしたリズムで、楽しさで満ち溢れています。だから、ピアノ専攻では、弾く場合の好き嫌いが真っ二つに分かれるのがバッハです。G線上のアリアの前半は穏やかですが、後半からドラマチックになり、そこの色合いの変化が素敵です。だから、のんびりした最初の部分だけ聴いて、聴き流してしまう人は、ぜひ最後まで聴いてみてください。ついでに、低音や中音のパートが、いかに良い仕事をしているかも要チェックです! ミント音楽教室
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