下の写真は、ディアナ・ダムラウによる『夜の女王』(オペラ『魔笛』のDVDより)です。
ディズニー映画『マレフィセント』のイメージは夜の女王から?何となく雰囲気が似ています。
みなさんは、歌の経験がありますか?
カラオケが苦手な人でも、学校の音楽の時間や合唱などで歌ったことはあると思います。
残念ながら、私は合唱コンクールで歌った経験が無いです。ピアノを弾ける人がいなかったため、毎回伴奏者でした。
しかも、後日廊下に展示された合唱の写真に私の姿は無く、左端に私の手首とペダルを踏む右足だけが写っていました、、。
さて、本題に戻ります。合唱では、声の音域に合わせ、様々なパートに分かれます。
音楽の専門用語では、人間の声の音域を表す基本的な名称を6種類に分けています。
音域を低い方から並べると、男性はバス、バリトン、テノール、女性はアルト、メゾソプラノ、ソプラノです。
オペラでは、男女共に高い声の人が主役で、低い声を持つ人は悪役や脇役になることが多いです。
だから、声が低い人は主役になれないため損な気がします。
でも、高い声は年齢と共に劣化するため、低い声は色々な役で長く活躍出来て、案外得かもしれません。
また、意外に思えるかもしれませんが、高音域は、訓練すれば誰でもある程度までは出せるようになります。
逆に、低音域を広げるのは難しいです。だから、声が低い人は「私は伸び代があるからラッキー!」と考えてみて下さい。
●声楽あるある!
テノール馬鹿とは?
https://www.mintpiano.net/blog/65463/
『夜の女王のアリア』は、技巧的な歌唱で有名な曲です。途中で、一度聴いたら忘れられない特徴的なフレーズが出てきます。
ソプラノの中でも特に高い音域です。軽やかに技巧的で華やかな装飾音を歌える『コロラトゥーラ』が歌う曲です。
オペラ『魔笛』の第2幕で歌われ、原題は『復讐の心は地獄のように胸に燃え』と何ともすごいタイトルです。
女王が娘に向かって「私は復讐の炎で燃えている。ザラストロを殺せ!でないと親子の縁を切る!」と脅かす歌です。
こんな内容なのに、ある大手の車メーカーは、この曲をファミリーカーのCMに使用していました。(なぜ?)
それに、本当に憎い相手なら、女王は自分自身の手で殺そうとするのでは?と設定にツッコミを入れたくなります。
矛盾点もあるものの、この曲は音域的に歌える人が少ないため、楽譜通りに歌えたら拍手喝采される数少ない曲です。
夜の女王のアリアの楽譜を広げると、ため息が出てしまいます。印刷ミス?と感じるほど音域が高いのです。
アナ雪2の『イントゥ・ジ・アンノウン』の最高音よりも更に1オクターブちょっと高いです。
普通の悪役は、低い音の設定が多く、例えばミュージカル『リトルマーメイド』の魔女アースラは 野太い声です。
一方、この曲の人間の限界を越えるかのような超高音は、夜の女王の怒りや狂気を音で表現しているのでしょう。
歌声というより、鳥の鳴き声、または笑い声のようにも聴こえます。(後日、インコが歌っている面白動画も発見!)
バイオリン譜のような音の跳躍やスタッカートが多過ぎる譜面は、普通の歌の楽譜とは明らかに見た目が違っています。
モーツァルトは、歌手の喉を考えないで精密機械のような器楽的な声を追求するようなサド的性格だった?
どちらにしても、当時のオペラ歌手は「こんな曲を書くなんて、モーツァルトのヤツ~!」と苦々しく思ったことでしょう。
この曲を歌うことで喉を潰してしまったオペラ歌手が、モーツァルトを恨んで暗殺したのでは?という噂があるほどです。
●声楽あるある!
こんな人達がいます♪
https://www.mintpiano.net/blog/45011/
実際に歌えるかどうか確かめるために、楽譜を見ながら実際に歌ってみました。
分かったのは、夜の女王のアリアは、ソプラノの人でも、うかつに手を出さない方が身のためだということです。
私も歌えそうと思って普通に練習していたのですが、次の日、完全に喉の調子がおかしくなり、かすれ声になりました。
普段出していない超高音域で無理やり歌うのは、喉をひどく痛めることを実感しました。
また、私がギリギリ出せた音も、美しさからは程遠い乾いた声でした。音楽的とは言えない雑音が混じった声です。
オペラは、キーが固定されている中で、潤いのある美しい声で音楽的に歌を表現しなければいけません。
一方、クラシック以外の歌手は、音域に合わせて原曲のキーを変えます。本人が余裕で出せる真ん中8割に収めます。
両端のギリギリの音域は、体調によって出しにくかったり、響きがきれいではないので、リスクを避けます。
そう考えると、この最高音を毎回キレイな響きで歌っているオペラ歌手は、この音が限界の音ではないのが分かります。
つまり、もっと高い音も出せるのです。そうなると、もはや一般人が努力や根性で太刀打ち出来るレベルではありません。
もし、この音域を最初から軽々出せる人がいたら、特殊な声帯の持ち主であり、この曲を歌える可能性が高いと言えるしょう。
しかし、高音がラクに出せる人にとっても、曲の後半に別の課題があります。
スタミナ(心肺機能)です。ラストスパートが厳しいのです。
48個の音が3連符で動き続ける長い長いフレーズを、一息で正確な音程で滑らかに歌わなければなりません。
ここを歌う時は、イメージで例えると、箱根駅伝の往路5区の山の上り坂を走っているような感じになります。
音の上下が絶え間なく動き続けるフレーズは、単音のロングトーンよりも声帯の筋肉が疲れやすく、息が苦しくなります。
しかも、細かい音の連続のため、隠しブレスを入れる隙間はありません。
心臓破りの長い坂のような3連符の連続を無事に歌い切ったとしても、その先には高音域でのスタッカートが待っています。
スタッカートというのは音を切る歌い方で、レガートで歌うより腹筋をとても使います。だから、ここでヘトヘトです。
それなのに、そのあとの最後の歌詞が「聴け、復讐の神々よ!聴け、母の誓いを!」なのです。だから、大声で歌います。
しかも、高音でのロングトーンもあります。まるで、スケート選手が、フリーの最後で4回転を飛ぶような構成です。
もし、疲れ果ててしまい、この部分を弱々しく短かめに歌ってしまったら、せっかくの曲が台無しになってしまいます。
その歌詞の世界観を表現するためには、全身で叫ぶように終わらせる必要があるのです。
このように、非日常の狂気の声を聴衆に届けるには、強靭な身体も必要なのです。
この曲を説得力のある解釈で歌おうとするならば、アスリート並みの肺を持った鉄人でなくてはなりません。
もちろん、『声を出すための筋肉、肺、声帯などが、十分に鍛えられている』という意味での鉄人です。
だから、生まれながらに特殊な声帯を持つ人が、努力を重ねて身体作りをして、やっと歌える曲なのです。
私は、この曲を歌うのは完全にあきらめ、ピアノ伴奏パートを弾いて楽しむことにしました。
ちょっと負け惜しみですが、ピアノ伴奏もブラックモーツァルトという感じで、なかなか素敵です。
私がピアノで伴奏しますので、誰か、夜の女王のアリアを歌って下さい♪
参考までに楽譜の一部を載せました。
『オペラ名アリア選集ソプラノ1』
音楽之友社より
一番上の段が、歌のパートです。
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