皆さんは、『ジャズボーカル』という言葉から何をイメージしますか?大人の雰囲気。派手目のメイク。セクシーな服装。気だるい感じ。ハスキー声。こういったところでしょうか?下のイラストも、画像サイトで「ジャズボーカル」と検索したら出てきました。日本でジャズを歌っている人は、確かにそういう感じの人も多いです。ジャズボーカルに対する日本人の持つイメージを、払拭したいと思ったので、今回の記事を書きました。
本当は、こんなんじゃない! ジャズボーカルの定義とは?
ジャズは一言で言うと『アレンジ』です。料理で言えば創作料理で、オリジナル性が一番大事です。もちろん、基本的な歌や楽器の技術があることが大前提です。声質も音楽スタイルも何でもありです。原曲のメロディーやリズムを『自分流に変えて』演奏します。例えば、クラシック音楽は、楽譜に忠実に演奏するのが基本ですが、ジャズは正反対で、そのままではダメなのです。だから、原曲そのまま、不安定な音程、浅い呼吸、不明瞭な英語で、セクシーに歌うのは、全く違うジャンルです。私が好きな世界的なジャズボーカルの1人『エラ・フィッジェラルド』は、明るく可憐な豊かな声が特徴です。彼女の歌を聴けば、上に挙げたジャズボーカルのイメージとは、まるで違っているのが分かるでしょう。元々歌の上手い人が、自分だけの音楽の世界を鮮やかに展開するのが、本当のジャズボーカルです。エラは、時に力強く、時に快活に、時にエレガントに、様々な曲を自由自在に歌い分けています。
次に、ジャズボーカルの難易度を、やさしい順に、ざっくり挙げていきます。レベル4、5、6は、同程度なので、アレンジにより前後するケースもあります。● レベル 1 シンプルな素材のまま♪【メロディーと英語の歌詞を覚える】英語のリズムや響きに慣れる。歌詞を読み込みメロディーを付ける。英語の発音が悪いとカッコ悪いので、英語の勉強は必須。● レベル 2 少しだけイメチェン♪【伴奏のリズム、拍子、速さを変えて】例えば、4ビートをバラード、ボサノバ、ラテンにしたり、3拍子を4拍子に変化させるなど。伴奏に乗れるリズム感が大事で、合わせるコツは、ドラムを良く聴くこと。● レベル 3 物真似でプロ気分♪【プロのアレンジを完全コピー】創作料理なのに、素材、作り方、盛り付けまで全てパクリのため、ジャズマンの間では評価は低くなる。でも、プロが考え抜いたフレーズは完成度が高く、勉強としての練習はアリ。何度も聴いて耳コピーする。● レベル 4 オリジナル料理♪【メロディーをフェイク】フェイクとは、メロディーやリズムを崩すこと。素材の味を生かしたアレンジ。原形が残るアレンジもあれば、かなり変化して別物のように聴こえるケースも。音で遊ぶように何パターンか作るのを繰り返していくと、少しずつ自分流に。● レベル 5 前菜をお洒落に♪【Verse(ヴァース)を付ける】ヴァースというのは、メインのメロディーに入る前の導入部分。セリフのような語りの歌。ジャズボーカルの音源の大半は、ヴァースを省いてメロディーから歌われるため、知らない人も多い。ヴァースがあると曲に広がりが出るが、歌唱力や表現力が無い場合は、ただの退屈な歌になってしまう。ヴァースは、ボーカルとピアノ伴奏者、両者の実力が露呈してしまう怖い場所。念入りな練習が必要。● レベル 6 細部までセンス良く♪【曲のあちこちにアレンジを加える】コーダ(後奏)を長くする、転調する、おかず(短いフレーズ)を入れる、楽器とユニゾン(同じメロディーを一緒に歌う)など、小技を効かせる。カッコ良くするために、気付かれないような場所にもこだわり、色々工夫する。● レベル 7 相手との楽しい対話♪【4バース※(bars)をする】4バースとは、4小節ごとに楽器を変えて掛け合いをしていくこと。楽器とドラムでやることが多い。8バース(8小節)などもあります。複数の楽器で回す場合は、互いに目で合図してアドリブをつないでいく。※小節のことを英語でbarと言います。本来のbarsの発音はバーズですが、日本では何故だかバースが通称。 ● レベル 8 声で大胆にお絵描き♪【スキャットをする】(声でのアドリブ)歌詞は使わず、管楽器のように(ダバダバ、ドゥディドゥディなど)歌う。声を使っての即興演奏。 コピーでなく自分のアレンジでスキャットを本番で格好良く歌えるのは、相当のレベルの人だけ。スキャットの女王と呼ばれるエラの、ベルリンでの『How high the moon』の録音は、ジャズ史に残る名演。
●ジャズボーカルあるある! 色々なタイプを紹介します♪https://www.mintpiano.net/blog/60041/
ボサノバは、お洒落なカフェや雑貨店などでBGMとして流れているので、耳にしている方も多いでしょう。ジャズボーカリストはボサノバも歌います。ライブでは箸休め的な使われ方をします。ボサノバは、あまり崩しません。柔らかい声で歌うので、声量が要らない反面、発声のコントロールが意外と難しいです。ギターとの相性がとっても良く、リラックスしたイメージを出すために、椅子に座って歌う人も多いです。また、実際に歌ってみると、聴くよりも音程やリズムが難しいことが多いです。あと、ボサノバはブラジル発祥の音楽なので、基本的には歌詞は『ブラジルポルトガル語』で歌います。英語版もありますが、比較してみると、原語であるポルトガル語の方が、より自然で素敵です。馴染みがない言語なので、最初は魔法の呪文みたいに感じます。語尾のRの発音にハ行を混ぜるのが特徴です。有名な『イパネマの娘』の出だしの歌詞をカタカナに書き出すと、こんな感じです。♪オーリャキコイザマィシュリンダマィシェアジグラッサ~エーラメニーナキベンイキパッサ~ポルトガル語を聴いていると、なんだか英語がとても簡単に思えてきます。何度も聴いて発音を真似ていきます。ボサノバを歌う時、力みは禁物です。涼しい風が通り抜けるような発声を心掛けましょう。
抜群な歌唱力とリズム感のスキャットの女王、エラ・フィッジェラルド。彼女の凄さが分かる動画。
ジャズは、まず最初にイントロ(前奏)から始まり、次にテーマ(メロディー)が登場します。テーマが終わった後、色々な楽器がテーマをくずした形で1人ずつソロを弾きます。(上の動画もそうです。)リレーのように繋いで、みんなのソロ演奏が終わったら4バース(無い時もある)、最後に、もう一度テーマです。テーマが終わったら、エンディング(後奏)で終わります。観客は、各楽器のソロが終わると拍手をします。「良かったよ!」というメッセージなので、拍手は任意です。また、アドリブのフレーズの一部に、みんなが知ってる曲を紛れ込ませたり、遊び心があるのもジャズです。しかし、ジャズの崩しはデタラメではなく、コードやジャズ理論に沿って、合う音を選んでアレンジしています。意外に難しいのが、ジャズ特有のリズム感の習得です。『エラ』は、驚くほどリズム感が良いです。ジャズを上達させるためには、たくさんの演奏を聴いてセンスを磨き、表現の引き出しを増やしていきます。ジャズ音楽を身近に感じ、楽しむ人が増えることを願っています。 ミント音楽教室
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