下の写真は、映画『ボヘミアン・ラプソディー』のポスターです。イギリスのロックグループ『Queen』のメインボーカル、フレディ・マーキュリーを描いた伝記映画です。この映画は、近年日本でも大ヒットして話題になりました。私も映画館で観ましたが、コンサートシーンの臨場感がとても楽しめました。今回は、フレディ・マーキュリーの声に焦点を当てています。
フレディ・マーキュリーは、私にとって『神様』です。(長いので以降フレディと省略)歌声、表現力、存在感、ステージパフォーマンス、どれも凡人には到達出来ないレベルの歌手だからです。彼の声は、まるでバイオリンの名器のようです。繊細な声から力強い声まで自由自在です。映画で、最初にフレディが「オレをバンドのボーカルに入れてくれ」とメンバーに頼んだ時、出っ歯をバカにされます。フレディは、歯並びを気にしましたが、「声が変わるかもしれないから」と歯列矯正を拒んでいたそうです。歌の上手い人は、口が大きい人が多いです。でも、響きを良くするには『口の内部を開ける』のがポイントです。響く声にするためには、口の内側の空間を少しでも広くする必要があります。高校生の時の声楽のレッスンでは、毎回手鏡を見て、舌の位置をチェックしながら発声練習をしました。舌が上がらず自然な形になると、響かせる空間が増やせます。もし、フレディが歯を治したなら、口の内部の空間も減り、響きが少し落ちてしまうかもしれません。
ところで、『ボヘミアン・ラプソディー』の楽曲は、とてもユニークです。バラード風に始まり、どんどん曲調が変わります。最初に聴いた時、とても変わった面白い曲だと思いました。オモチャ箱のようなカラフルなイメージでした。コーラス部分を聴いて「合唱団のピッチや声質に統一感があってレベルが高過ぎる!スゴイ!」と感じました。でも、映画を観て理由が分かりました。抜群の歌唱力を持つメンバー3人が、レコーディングで何十回と多重録音して出来上がった曲だったからです。レコーディングと同じ音質は、普通の合唱団では出せないので、ボヘミアン・ラプソディーは「幻の曲」とも言えます。
昨年9月のイベントで、フレディのソロ曲『I was born to love you』のボーカルをやることになりました。CMに使われることの多い人気曲です。何十回も聴いた曲です。でも、すぐ問題に気付きました。1ヶ月後に歌うのに、口ずさんだことすらなかったのです。(神様だから聴く専門)幸い原曲と同じキーで歌えそうです。まずは、一緒に歌うため音源をかけますが、聴き入ってしまいます。何度もそういう事を繰り返してしまうので『フレディの声は聴くのに集中してしまう特殊な声質』と思いました。フレディの声質は厚みがあります。色々な音域で倍音が鳴っている感じです。だから、同じ音量であっても、ほかの歌手より声の存在感が強いのです。昨年、日本で開催されたW杯ラグビーの試合では、フレディの「エーオ!」が流れていました。彼の声は、ジャングルでリーダーのオス猿が周りの猿達に叫ぶような『本能に呼び掛けるような声質』です。だから、ウェンブリー・スタジアムでのライブでの観客との掛け合いでの一体感が生まれるのだと思います。だから、私もフレディの「エーオ!」が聴こえると、つい反射的に「エーオ!」と返したくなってしまいます。下の動画は、かなりマニアックですが「エーオ」の部分だけのものです。1人なのに、声の存在感がすごいです。
さて、イベントに向けてメロディーや歌詞を覚えた時点で、新たな課題が出てきました。メロディーの最後の「♪every single day~ of my life~」が、高音のため裏声になりパワフルさに欠けます。もちろん、森山直太郎さんのような裏声も表現の一つですが、この歌詞と男性的な曲調には裏声は合わない気がします。ヒントを探すため映像を観て気付いたのは、フレディが高い声や強い声を出す時に身体を少し反らすクセです。まさに、映画のポスターのイメージです。(本当のフレディは、あそこまで反らしていません。)真似をして、少しだけ背中を反らした状態で歌うと、簡単に地声で強い声が出せました!声楽で高い声を出す時は、真っ直ぐの立った状態で、おへその下から鼠径部にかけての内側の筋肉を締めます。でも、実際にフレディのポーズを真似してみると、身体を支えるために、同じ部分の筋肉が自然と突っ張ります。これは、逆転の発想で驚きました! 才能がある人は、身体の使い方も非常に優れているんですね。
フレディは、学生時代、音楽以外に長距離とボクシングもやっていたそうです。コンサートでフレディが拳を突き上げるポーズは、ボクシングから来ているのかもしれません。映画では、空港で荷物を運ぶバイトをやっているシーンもありました。長距離走やボクシングで心肺機能を鍛えたり、バイトで背筋を鍛えたり、様々な経験が歌の基礎になっています。ところで、現代の歌手は、様々な専門家が協力してアーティストのイメージを作り上げます。一方、フレディの個性的なファッションやパフォーマンスは彼独自のもので、笑われても自分のアイデアを貫きました。美術大学出身でデザインのセンスにも優れ、レコード『オペラ座の夜』のジャケットデザインをしているほどです。驚いてしまうのは、デビュー当時の『keep yourself alive』の動画でさえ、カリスマ性が見られることです。パフォーマンスやセルフプロデュースに長ける彼を越える人は、これからも現れないことでしょう。~レディー・ガガの言葉より~ フレディは唯一無二の存在よ。 音楽史上最大のスーパースターの 一人ね。 彼はシンガーであるだけでなく、 素晴らしいパフォーマ-であった。 舞台を制する人であり、 常に自分を変化させつづけていた。 一言で言えば、天才よ。 ミント音楽教室
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