光熱費や消耗品の高騰を理由に、月謝を上げる教室も少しずつ増えてきている。
私を含め、ほとんどのピアノ教室の先生達は、月謝設定を今後どうするか非常に悩んでいる、と言っても過言ではない。
ところで、個人教室のピアノの先生は、世間からは、月謝分が全部自分の手元に残ると思われている。
「自宅でやっているから、家賃もタダでしょ。」と思う人もいるかもしれない。
とんでもない。土地と建物の価格の15~25%分はピアノ室が占める。だから、その分の料金が教室運営に含まれている。
毎月支払う住宅ローンの一部は、ピアノ教室の経費分なのだ。
グランドピアノは移動も出来ず、コンパクトに片付けることも出来ないから、ピアノ室は、他の用途には使用出来ない。
そもそも、グランドピアノそのものが非常に高い。調律や修理代もかかる。椅子や足台すら、専用の物は高額である。
グランドピアノを置くための床補強工事をしたり、音漏れのため防音設備を整えている教室などは、更に初期費用が嵩む。
娘が高校受験前に塾に通っていた時、月謝以外にも教室設備使用料という項目があり毎月しっかり徴収されていた。
でも、塾で必要な備品(ホワイトボード、机、椅子など)よりも、ピアノ教室の設備の合計金額の方が、はるかに高いはずだ。
それにも関わらず、月謝以外に教室設備費などを別料金で取っている個人教室の割合は少ない。(大手は徴収している。)
私は、最近、経営についての本も読んでいる。個人事業主として音楽以外のことも学ぶべきだと思い始めたからである。
土地や建物の価格を按分し、グランドピアノの代金、教室の備品、広告費、光熱費などの様々な経費を計算してみた。
数字を見ると現実に愕然とする。月謝の多くの割合が、教室備品やローンや様々な経費で消えてしまう。
沢山の生徒を集客出来ている一部教室を除けば、ほとんどの教室では利益が少なくなるだろう。人数によっては赤字になる。
そのように、個人教室の多くの先生は、自分自身の人件費を削って薄利で頑張っている現状である。(自覚が無い人もいる。)
そこで、新たな値上げ方法が最近少しずつ増えてきた。「レベルが上がっても月謝は一律です。」と強調している。
一般的には、ほとんどのピアノ教室は、レベルごとに料金が上がっていくシステムを取り入れている。
一部の保護者は、「ピアノの月謝がどんどん上がっていったらどうしよう?」と不安に思うかもしれない。
でも、そんな心配は要らない。ピアノ上達には時間がかかる。つまり、そんなに短期間で頻繁には値上げされないのである。
それに、個人教室のレベルが上がる時の値上げの金額の幅は、500円~1,000円程度だ。一度に何千円も上がったりしない。
実は、『料金が同じ』とうたう教室は、最初から2~4段階程度上のレベルの金額を上乗せした月謝設定にしているだけだ。
前倒しで払っているだけで、本当は全然お得ではない。人は値上げを嫌がる、という心理を回避するための価格設定なのだ。
ちなみに、そのシステムだと、幼稚園生も高校生も同じ月謝ということになる。
極端に言えば、曲が『ぶんぶんぶん』でも、ベートーベン作曲の『悲愴ソナタ』でも、料金が全く同じということだ。
???何だか変ではないか?
長年指導してきた経験から考えると、そのシステムには違和感がある。
段階によって曲の難易度が上がり、技術もより複雑になっていき、月謝が少しずつ上がる方が自然ではないか。
しかし、、、。さっきの話に戻る。ほとんどの個人教室において、ピアノの月謝は経営的には成り立たない金額である。
人数を沢山集められれば状況は変わる。だが、少子化の影響や習い事の種類も増えたために、それも難しい世の中だ。
そして、最近のお子さんは進度が遅い傾向だ。習い事が多いため生活が忙しくて、ゲームなどにも多くの時間を奪われる。
保護者達も働いているために忙しく、家庭内で積極的に練習させる時間を取ることが以前より難しくなっている。
練習不足のためレベルも上がらないから月謝もずっと同じまま、というケースも少なくない。
やっと上手になってきてレベルが上がるタイミングで、塾や部活や受験などを理由にピアノ教室を辞めてしまうこともある。
それらの理由を踏まえて、最初から月謝を高めの設定にした方が利益が上がる、と判断して均一価格にしたのだろう。
現時点では真似しようとは思わないが、経営的視点をしっかり取り入れた新たな価格設定には感心する。
ビジネス的に捉える人が少ない音楽教室の先生の中で、そんな風に黒字転換の仕組みを考える人が出てきているのは頼もしい。
ちなみに、月謝一律プランの場合では、才能と素質に恵まれて上達スピードが非常に早い生徒さんだけが得をすることになる。
そんな生徒さんの割合は、非常に少数だ。お客様ファーストで考えると、私は、そのシステムには二の足を踏んでしまう。
日本人の給料が上がらない問題と同じように、ピアノの月謝が安過ぎる問題も、なかなか解決の糸口が見つからない。
※経営面からの試算では、ピアノ教室が事業として健全に成り立つための月謝の適正価格は、10,000円~12,000円である。
レッスンや学費にかかった多額の費用や技術を身に付けるための膨大な練習時間を考えると、実はそれでも足りないくらいだ。
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