ピアノ経験が無い親御さんへ知って欲しいこととは?

2023年03月29日 20:50
カテゴリ: 保護者様へ


ピアノ経験のある親御さんは、ピアノが短期間で上達するものではないことを身をもって知っている。

ところが、ピアノの経験が無い親御さんの場合、「教室に通えば、すぐにピアノが弾けるのでは。」と思いがちだ。

「どうしてうちの子は手が動かなくて進むのが遅いのだろう?」と思う。

そればかりか、「一年たってもスラスラ弾けないし才能無さそうだから辞めさせようか。」などと考え始めてしまう。

小さいお子さんの場合、ピアノの初期段階においてはスローペースである。2年後位から成長曲線がグーンと伸び始める。

第一、幼児がピアノを弾くことは、大人が思うよりも重労働だ。

幼児の握力は、わずか6kg~9kg(!)しかない。その握力だと、ピアノの鍵盤は大人が想像する以上に重たい。

幼児にとっては、手のひらを下に向けて垂直方向に指を一本ずつ動かして鍵盤を弾くことさえ、大変な作業である。

だから、真下を押しているつもりなのに斜めに動いてしまい、隣の鍵盤を押してしまったりといったミスタッチも多い。

この前のレッスンで、小6のRちゃんがこんなことを言っていた。

「今は指がこんなに楽に動くのに、最初の頃、ピアノはすごく難しかった。」

それを聞いて、「私もRちゃんと同じだったよ。最初の簡単なはずの曲が大変だった。不思議だよね。」と答えた。

変な感覚だが、私自身、今弾いているショパンの曲よりも、習い始めの曲の方がよほど難しかったような感じがするのだ。

当時の私の感覚は次の通り。

【ピアノはつらいよ!】(子どもの感覚)

●ピアノの鍵盤は固くて重い。
●何回も弾いていると身体が疲れる。
●右手も左手も瞬時に分からない。
●違う指も一緒に動いてしまう。
●両手で弾くと片方に引きずられる。
●先生に言われても、すぐ出来ない。
●自分の手をコントロール出来ない。

このように、初期段階のお子さん達は、想像以上にもどかしい思いを抱えながら頑張ってピアノを弾いている。

ふと、ピアノを打鍵する時に、一本の指にはどれくらいの力がかかるのだろう?と疑問を抱いた。

それに関する資料が全く無かったため、台所にあるキッチンスケールを出して、自分の指で実際に押して計測してみた。

弱い音では50g~100gほどだが、ある程度強い音(メゾフォルテ)を出す時には、なんと600~750gにもなる。

参考までに、私が最も強く押した時は、1000gを軽く振り切ってしまう。(1kgまでしか目盛りが無いため計測不可能。)

とにかく、幼児の小さな細い指で、ギリギリの力を振り絞ってピアノの鍵盤を押していることだけは間違いない。

特に薬指や小指は力が弱いため、レッスンでは音が極端に小さすぎたり全く鳴らないこともよく起こる。

レッスンでは、指の一本一本を独立させ脳との伝達を強化してゆく。楽譜の読み方を教え、リズムも慣れさせていく。 

ピアノは筋トレと似ている部分もある。定期的な練習によって、手や指の筋力がゆっくりと徐々に発達する。

何度も何度も練習を繰り返し身体で覚えて、やっと自由に行きたい方向へコントロール出来る。

最近は、YouTuberのピアノを見て、ピアノに憧れ、ピアノを習い始める人も増えているという。

楽しそうに弾いているのを見て、「あんな風に弾けるようになりたい!」と思う人が多いだろう。

でも、人を楽しませるレベルの技術は、例外なく長い年月の練習や様々な音楽体験の積み重ねの上に成り立っている。

それに、人間の指は、元々両手10本の指が独立して動くようになっていない。両手で違うリズムで弾くことも難しい。

だから、上達のスピードを上げたいと願うなら、初歩の段階から家庭での練習習慣を身に付けるのが、一番効率が良い。

【私自身の経験を告白】

前述の通り、最初は指が全く動かなかった。その頃、先生や親に「出来ないから辞めたい。」と言ったらしい。(!)

私の両親は楽器経験も無くて楽譜も読めず、とても忙しかったから、家で教えてくれるということもなかった。

子どもながらに「私は不器用だな。」と感じながらピアノを続けていた。先生の手の動きが、別次元での魔法のように思えた。

出来ない時期からしばらくすると、突然霧が晴れたように指が自由に楽に動くようになった。ピアノが楽しくなった。

音楽の世界では、物心つく前からピアノを習っていた人が多い。友人は「気が付いたらピアノを弾いていた。」と言う。

しかし、少数派ながら、私のようなスロースターターや初歩レベルで不器用タイプもたまにいる。

もし、初期段階の私の弱音を真に受けて、両親がピアノをすぐ辞めさせていたなら、私は音楽の仕事をしていない。

指導歴30年以上、TOEICスコア805点で英検準一級も保有する、歌って弾けるピアノ教師が記事を書いています♪

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