私は、コロナ禍で緊急事態宣言が出されてから、慌ててオンラインレッスンを実行したタイプだ。
実際にオンラインレッスンを経験して比較すると、ピアノの場合は対面レッスンの方が断然良いと感じている。
その理由を、色々説明していこう。
まず、音の問題である。どんなに工夫しても、ピアノの音質はオンラインで変化してしまう。繊細な響きも伝わらない。
オンラインと生ピアノの音質の違いは、安いレトルト食品と老舗レストランの食事くらいの、大きな隔たりがある。
次に、生徒さんがピアノを弾く時の身体の動かし方が、映像では非常に分かりにくいというデメリットがある。
オンラインレッスンでは、手元や上半身を映すことが多い。すると、全身や脱力加減が全く見えないのだ。
また、双方共に視覚情報に偏りやすい傾向がある。指導者側も、ついつい画面に集中してしまいがちだ。
つまり、レッスンでの内容は、音やリズムの間違いを指摘するのがメインになる。一歩踏み込んだレッスンは難しい。
確かに、オンラインは便利だと思う。出掛けなくていいので、レッスンの行き帰りの時間や交通費も節約出来る。
「いつでも好きな時間に自宅でレッスンが受けられます♪」というキャッチフレーズは、確かに魅力的かもしれない。
しかし、初心者レベルなら、オンラインと対面レッスンの代金は、ほとんど変わらない。人件費がかかるからだ。
それなら、対面レッスンの方が、ずっとお得ではないか?レッスン室のグランドピアノを弾ける環境なのだから。
実は、楽器店などでグランドピアノを練習しようとレンタルすると、一時間あたり2,000円~3,000円もかかる。
グランドピアノのタッチは、電子ピアノなどのデジタル機器とは明らかに違う。音色も音量の幅も、より豊かだ。
そもそも、レッスン室はピアノを学ぶ人のための道場である。そこには、沢山の『音楽の気』が漂っている。
それは、私が音楽を学んでいた時に、学校や先生の家のレッスン室で毎回感じていたことだ。空気感がまるで違うのだ。
どの世界であっても、その道の専門家が時間を費やす現場の空気を肌で感じることは、とても意味があることだと思う。
一方で、オンラインを逆手に取り、遠方の生徒さんをターゲットにして広告を出す先生や業者も増えてきている。
距離的なレッスンの壁が消えて、全国のピアノの先生が競合相手とならざるを得ないような厳しい時代の始まりだ。
このように、コロナ禍は、古い体質のピアノ教室業界においても、仕事の形態に大きな変化をもたらしている。
それでもなお、私は、対面レッスンにより魅力を感じ、そちらをメインの仕事にしたいと思っている。
リアルでしか得られない触覚や聴覚の敏感さが、ピアノを学ぶ上では重要で成長を助ける、と感じるからだ。
だから、オンラインレッスンは既存の生徒さんが外出出来ない場合のオプションと考えている。
もし、ピアノの音が変化せず、弾いている全身が3Dで見られるなら話は別だが、そんな未来は、まだ先のことだろう。
●ピアノの先生がオンラインレッスンから感じることは?
https://www.mintpiano.net/blog/53952/
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