クラシックの音楽の世界では、『テノール馬鹿』という、いささか失礼な言葉がある。
ちなみに、テノールというのは、男性の最高音域のことである。
誰もが知っているテノールの代表曲は、荒川静香さんが金メダルを取った時の『誰も寝てはならぬ』だろう。
この曲は、最後にクライマックスがあり、歌手は声を張り上げ高音を長く伸ばす。ハイトーンは、言わば飛び道具だ。
クラシックを知らない人でも、コンサートホールに足を運んで実際に聴いたら、その声の迫力に鳥肌が立つに違いない。
クラシックの声楽では、マイク無しで広い会場に響かせられる特殊な発声法(ベルカント唱法)を使う。
声楽の人は、音楽系の人達の中では性格が一番明るい。地声も大きいため、賑やかで華やかな印象だ。
声で表現する人は身体が楽器だから、沢山食べて、しっかり寝て、ストレッチや運動もする。つまり、とても健康的だ。
ピアノ専攻のように、練習室に長時間こもることはない。練習のし過ぎは、かえって喉を痛めてしまうからだ。
また、悩みなどネガティブ感情があると、身体の筋肉が強ばって声が響かなくなるため、ポジティブな人が多い。
当然、ロダンの『考える人』のように、人生について深刻に哲学的に考えるタイプの人は少なくなる。声に悪いからだ。
『最後の秘境、東京藝大』という本がある。内容は、藝大の生徒へのインタビューやエピソードをまとめたものだ。
ピアノ専攻は、練習し過ぎて肩を壊してしまった、とか、洗い物を一度もしたことがない、などと紹介されている。
一方、声楽専攻の男子は、チャラい、女子を口説きまくる、筋トレばっかりしている、などと書かれている。
確かに、『テノール馬鹿』という言葉通りだ。その行動からは、残念ながら知性が感じられない。
でも、何度も言うが、声楽は、マイク無しでもホールの最後列まで響かせられるような声を出さなければならないのだ。
そのためには、強いインナーマッスルや体幹が必要だ。半分アスリートなのだ。
だから、筋トレをすることは利にかなっている。体力作りも、楽器をより響かせるためのメンテナンスの一つだ。
また、オペラには、女性を口説きまくるチャラいキャラクターが結構出てくる。地で練習している、とも考えられる。
概して、声楽の人達は中身がイタリア人ぽい人が多く、人生を楽しんでいる。それもこれも、全ては声のため?である。
※『最後の秘境、東京藝大』の本の中では、学生時代のKing Gnuの井口さん(声楽専攻)も紹介されている。
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