ピアノの先生で、2、3才からピアノを始めた人は、最初のレッスンの記憶があまりないようだ。
友人は、「気が付いたらピアノを弾くのが当たり前の生活をしていた。」という。
あいにく、私は小2からピアノを始めたため、しっかり記憶がある。
最初、左手が動かなかったり、左右のリズムで迷ったことを覚えているから、子どもの生徒さんの気持ちは理解出来る。
でも、大人になってからは、ずっとピアノの仕事をしているため、長いブランクなどは経験していない。
大人の生徒さんの気持ちは、レッスン中での表情や言葉の端々から想像しているものの、本音は違うかもしれない。
だから、この本を読もうと思った。著者の稲垣えみ子さんは、元新聞記者、つまり言葉のプロだ。ぜひ本音を知りたい。
いざ読んでみると、ピアノに対してのチャレンジを赤裸々に綴っているドキュメンタリーのような内容だった。
驚くのは、文全体から溢れ出るピアノへの愛だ。私も、ピアノへの思いは強いと自負しているが、多分それ以上だ。
いや、稲垣さんの文章力と自身のキャラクターが掛け算になって、ピアノへの情熱においては最強の本であると言えるだろう。
【面白い表現の一部を紹介】
・楽譜とは、作曲家の残した「宝の地図」なのだ。
・おっそろしい先生というのは、現代ではほぼ絶滅したらしい。
・指がもつれすぎて結び目ができるかと思うほどだ。そして、それ以上にもつれるのは頭の中。
・ピアノに人生を乗っ取られたと言っても過言ではない。※毎日2時間練習していることに対しての表現。
・こうして、希望と絶望がミックスされた状態の中で、今日もピアノに立ち向かう。
【まとめ】
ピアノに興味があって、次の一歩が踏み出せない人に勇気を与える本だが、ピアノの先生にもオススメだ。
個人的には、『老後とピアノ』より、裏表紙にある英語の題名『MY LIFE WITH PIANO』の方が、しっくりくる。
稲垣さんの表現を借りれば、私もピアノに人生を乗っ取られた一人、と言えるかもしれない。
ピアノのレッスンや発表会では、彼女の感情の振り幅がすごいことになっているが、それは若さの象徴でもある。
そんなドキドキを全身で感じている彼女が羨ましくなり、何か新しい事にチャレンジしたくなる、そんな本だ。
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