「他人から見られたくない物は何ですか?」と聞かれたら、ほとんどの人は、「手帳や日記。」と答えるだろう。
ピアノの先生の場合、見られたくない物は楽譜だ。楽譜には、沢山の秘密が詰まっているからだ。
ただ、楽譜はサイズが大きいしバッグに入れるため、落としたり紛失することは滅多になく、人に見られることはない。
でも、それが起こったケースを想像してしまう時がある。次は、色々な人が私の楽譜を拾った場合の想定だ。
【ケース①音楽経験の無い人の場合】
「なんだこれ?楽譜か、、、。書き込みしてあるし、中古本屋に持っていっても売れないな。ページはヨレヨレしてるし、シミもあるし、少し破れてるし、、。何だか汚いな。」とゴミ箱に捨てる。
【ケース②教えている生徒さんの場合】
「やっぱり、先生は字が下手だな。注意する場所の囲み方も雑。性格が大雑把なのかなぁ。それにしても、何でこんなに指番号が沢山書いてあるんだろう?もしかして、音符が読めないとか?」と、雑な性格だと思われ、疑問を持たれる。
【ケース③世界的ピアニストの場合】
譜面を見て「あー、この人は、この部分が苦手なんだなぁ。ペダリングの精度がまだまだ甘いな。でも、歌うことに重点を置いているんだな。」などと大まかな演奏傾向やレベルを推測されてしまう。
【楽譜の書き込みに関する解説】
ピアノの先生は沢山楽譜を持っている。もちろん、書き込みもほとんどせずに、さらっと練習する曲もある。
しかし、難しい曲や本気度の高い曲(人前で弾くなど)の場合には、楽譜への書き込みがすごいことになる。
指番号、ペダル、表現、ブレスなどを書き入れ、注意する場所には印を付け、自分用にカスタマイズする。
書き込みの仕方は、人それぞれだ。カラフルな色を使う人もいるし、ポイントを文字で細かく書き込むタイプもいる。
私の場合、自分が分かればいいと思うため、ハッキリ言えば雑だ。楽譜の書き込みからは、隠れた性格がバレてしまう。
それ以外にも、テクニックなどの個人情報も浮かび上がる。書き込みを分析すれば、何が苦手かが想像が付くからだ。
私は手が小さめなので、指使いを自分用に工夫して、書き直したりもする。
私の楽譜に指番号の記入が多いのには、実は、もう一つの理由がある。
なぜか、私の場合は、数字がある方が楽譜の記憶力が増すのだ。(多分、そろばんをやっていたせい?かもしれない。)
大半の人からはムダに見えるような数字の書き込みは、私にとっては練習時間や暗譜の短縮につながる大事な作業の一つだ。
そんなこんなで、日々練習する度に書き込みがどんどん増えて、楽譜には自然に手垢が付き、ヨレヨレになっていく。
また、楽譜を見ながらピアノを弾いている時は、演奏の流れを止めないように、ものすごい勢いでページをめくる。
百人一首の大会で札を飛ばすくらいの勢いで、楽譜を次々とめくっていく。そうすると、楽譜の端々が破れてしまう。
時に、曲の発想を得ようと様々な場所で楽譜を見るために、結果、飲み物のシミがいつのまにか付いていたりもする。
つまり、本人の様々な個人情報が沢山詰まっているのが、楽譜である。だから、人に見られると、とても恥ずかしいのだ。
※上の楽譜は私物。私はシャープペンのみを使用し、スピード重視で書き込むタイプ。色も文字も少ないが指番号は多め。
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