子どもの中学校の授業参観に行った時に、驚いたことがある。授業がアクティブラーニングだったからだ。
アクティブラーニングとは、生徒が能動的に学習に参加し自発的に学べるように指導していく教育法だ。
その中学校は、新しい教育法を実践するモデル校(実験校)としての役割も担っているため、システムがユニークである。
授業では、先生が説明をすることは全く無い。課題を投げ掛け、生徒たちが自分達で考えをまとめて発表するのだ。
私の学生時代は、先生が説明して黒板に要点を書き、生徒達は、ひたすらノートにそれを書き写していたものだった。
ピアノのレッスンも同じで、常に生徒は受け身だった。生徒がピアノを弾いた後に、先生が次々指示を出していく。
「もう一度弾いてみて。」「はい。」「違う!もっと左手を歌って。」「はい。」「耳を使って!」「はい。」
「ちゃんと強弱記号を見て弾いて。」「はい。」「アレグロだからテンポは速く!」「はい。」
こんなやり取りが、レッスンの間、ずっと続く。考えてみると、私は「はい。」という単語だけしか使っていない。
私は、その経験を反面教師にして、なるべく生徒さんに質問をして、本人が考えて答えさせるようにしている。
以下は、初級レベルの生徒さんとのレッスンの会話の例だ。
「この曲って、どんな感じがする?」「たのしいかんじ。」「じゃ、どんな強さが合うかな?」「フォルテ!」
「どんな速さがいいかな?」「、、おそい?」「そのテンポで弾いてみるね」「どうだった?」「ねむくなりそう。」
「良い所に気付いたね!テンポが遅いと眠くなるね。」「元気な感じにするためには?」「はやくひく。」「そう!」
弾き方の物真似もする。「今度は、◯◯ちゃんが先生になってね。どこが悪いかな?」「とまってる。」「当たり!」
こんな感じで、一方的に説明するのを極力少なくして、自分で考えて言葉にする誘導をしている。
ちなみに、私が参考にしているのは、池上彰さんの話し方だ。
問題を投げ掛け、相手の意見をほめて受け入れながら、より具体的な内容を追加して広げていくスタイルだ。
一見、ピアノと関係無いのでは、と思うかもしれないが、感じたことを言語化することは、表現への第一歩だと思う。
それが積み重なると、先生の指示通りの演奏ではなく、自発的な(積極的な)演奏が出来るようになっていく。
ただ、アクティブラーニングを取り入れてみて、向かないタイプがいることにも気が付いた。次のタイプである。
●心を閉じているタイプ。
●自分に自信が無いタイプ。
●基礎学力が低いタイプ。
●年齢が高い方。
最初の2タイプは、まず、心を開けるよう、自信を持てるようにしてから、アクティブラーニングを少しずつ始める。
残りのタイプは、自分の考えを表現することに非常にストレスを感じると分かったので、従来型の教え方にしている。
どんな方法であっても、万人に向く指導方法は無いように思う。
しかし、教育界のみならず、世の中の流れも、表現力やユニークさに重きを置いていることは明らかだ。
自分の音楽を表現出来ることが、他の分野にも生かされることを願いながら、日々生徒さんにレッスンをしている。
※後日、12月24日の東洋経済educationの記事で興味深いことが書いてあった。
開成の元校長の柳沢幸雄氏が、「優秀な生徒に共通する能力は、きちんとしゃべれること(伝える能力)」と言っていた。
『生徒の脳を動かし、しゃべらせてほめるアクティブラーニングは、とても有効な教育』なのだそう。
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