パリオリンピック開会式でのセリーヌ・ディオンの『愛の讃歌』の歌唱がとても素晴らしかったので、彼女の映画を観てみた。
アマゾンプライムのドキュメンタリー映画『アイ・アム・セリーヌ・ディオン~病との闘いの中で~』である。
映画では、現在のセリーヌの生活の様子やインタビューの間に、伸びやかに歌う過去のステージの様子が挟み込まれている。
セリーヌ・ディオンは、ディズニーの『美女と野獣』や『タイタニックのテーマ』で世界的に有名になったカナダの歌手だ。
私もCDを一枚持っているが、個人的に好きというよりも、歌のテクニックや発声のお手本として何度も聴いていた。
早い時期から歌の才能を見出だされ、顔も美しくモデルのようなスリムな体型、初恋の人と結婚し、子どもにも恵まれる。
他の歌手達が肉体的にも負担が大きいツアーを行うのを尻目に、住居のあるラスベガスのショーで活動をして大成功を収める。
富も名声も家庭も全て持っている幸運でキラキラしている歌姫、これが私がセリーヌ・ディオンに対する以前の印象だった。
ところが、実際は違っていた。彼女は、スティフパーソン症候群と診断される以前から、身体の不調に長年苦しんでいたのだ。
症状を抑えるために、コンサートの曲の合間に薬を投与するのは茶飯事で、使用する薬の量もどんどん増えていったそうだ。
魔術師のように伸びやかに自由に歌えた黄金期があったからこそ、思うように歌えない彼女の辛さやストレスは計り知れない。
レコーディングでも、自分の歌を聴いた後に顔をしかめ、やり直しをスタッフに提案している。
意外なことに、ラスベガスにずっと住んでいるのに、他の場所には寄らず、ショーの会場と自宅の往復の生活だったという。
「私は、飲むのは水だけで12時間睡眠。タバコを吸ってお酒を飲んで騒ぐ人達が楽しそうで羨ましい。」と話す。
彼女は、最高の歌をお客さん達に届けるために、自分の生活を厳しく律していた。
All I know is singing.
(私が知っているのは歌だけ。)
この言葉が、彼女の全てを表している。
映画の後半に、突如、セリーヌがけいれんを起こす様子が映し出される。全身が強張る映像は、生々しくて非常に痛々しい。
そんな身体の状態からエッフェル塔で素晴らしく歌えるまで回復したことは、にわかには信じられない。
開会式のセリーヌは、本人そっくりのアンドロイド?声は吹き替え?と思ってしまうくらいだ。
エディット・ピアフとセリーヌには、幼少期に非常に貧しくて、才能を見出だされて成功しているという共通点があった。
そして、ピアフは痛み止めから麻薬中毒に、セリーヌも大量の薬の投与を長期間していた。薬の副作用が出ないはずがない。
でも、誰が何と言おうと、彼女達にとっては、ステージが生きる場所なのだ!
映画の最後は、セリーヌがビゼー作曲のオペラ『カルメン』の『ハバネラ~恋は野の鳥』を歌う映像で終わっている。
その曲は、世界的なソプラノ歌手、マリア・カラスを一躍有名にした曲でもある。
映画の前半、セリーヌがマリア・カラスの遺品のペンダントを嬉しそうに見せてくれるシーンが出てくるが、そこと繋がる。
彼女にバトンを渡されたと言うべきなのか、それとも呪いなのか、、。(カラスの私生活も、決して幸せだとは言えない。)
光と影のコントラストがあまりにも強すぎて、平凡な人の方が余程幸せなのではないか、と考えさせられる映画だった。
※パリオリンピックの開会式の感想
(セリーヌ・ディオンについても言及)
https://www.mintpiano.net/blog/121626/
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