先日、『日本一チケットが取れないピアニスト』と称される反田恭平さんのコンサートに行ってきました。
今回は、ジャパン・ナショナル・オーケストラとの共演です。
私の一番のお目当ては、反田さんが弾き振りをするモーツァルト作曲のピアノ協奏曲第20番ニ短調です。
協奏曲とは、文字通りオーケストラと一緒に演奏するために書かれた器楽曲のことです。
私を含めピアノを弾く人達にとって、オーケストラと一緒に共演することは、憧れでもあると同時に叶わぬ夢でもあります。
ピアノ協奏曲の経験の機会を与えられるのは、コンクールの上位者や特別な才能を持つほんの一握りの人間だけだからです。
もちろん、お金を出せば可能ですが、指揮者、団員、スタッフへのギャラや会場費の合計は、目玉が飛び出るような金額です。
沢山の人数で演奏されるオーケストラの音は実にカラフルです。楽器の組み合わせで色彩も変わります。
そのため、協奏曲はソロ曲よりも派手で豪華な印象になります。
さて、いよいよ待望の協奏曲の準備が始まりました。中央のグランドピアノは、手前に鍵盤が来るように置かれています。
これは、弾き振りするための特別な配置です。ピアノの前に座ったピアニスト兼指揮者は、その場所から指揮をするのです。
だから、客席の人達は、ピアニストの後ろ姿をずっと見続けることになります。
そもそも、弾き振りが出来る人は、とても少ないです。
指揮者はピアノが必修ですが、音楽を理解するための道具として使うため、ピアニストのように弾けるわけではありません。
一方、ピアニストはピアノの音を追求するため、オーケストラや総譜(スコア)や指揮にも興味を持たない人が多いでしょう。
指揮もピアノもそれぞれ極めるだけでも困難なのに、大谷選手の二刀流に近いことを音楽でやっているのが弾き振りです。
両手を高く挙げて指揮していた次の瞬間、素早くピアノ演奏に入ります。その手の動きが美しく鮮やかで見とれてしまいます。
時折、立ち上がって指揮しながら、どんどんスコア(総譜)をめくっていきます。かと思うと、また素早く座って弾き始めます。
弾き振りでは、両手でピアノを弾いている最中も、目線や首の動きで団員にリズムのタイミング出すなど、実に忙しいです。
あれ、、?。始まってから気付いたことがあります。ピアノの音が他のピアニストの人達のようにキラキラしていないのです。
私が今まで聴いてきた協奏曲は、ピアノ対オーケストラという感じで、ピアノの存在感が強く、まさに主役(王様)でした。
けれど、反田さんのピアノは音が丸くてバランスが良くて、オーケストラの中に一つの楽器として入り込んでいる感じです。
こういう弾き方が出来るのは、普段からオーケストラの音を聴いている人だけです。
私が声楽を習っていた時に、「伴奏をよく聴いて、そこに自分の声を溶け込ませるように歌いなさい。」と言われました。
それと同じです。まさに、周りの音に溶け込むようなピアノの音色や弾き方で、見事に調和させていました。
彼は、どれほど感度の良い耳を持っているのだろうか、と痛感しました。たぶん、指揮者にしか出来ない弾き方でしょう。
さらに、嬉しいことが、もう一つありました。前列の真ん中の席だったので、息づかいをはっきり感じることが出来ました。
しかも、曲に合わせての小さな小さな歌声までも一瞬聴こえてきたのです。
将来的にはオペラも視野に入れていると語る反田さんは、どのフレーズも歌うように軽やかに弾いているのが印象的でした。
反田恭平さんの才能のきらめきを間近で体感出来て、本当に良かったです!
手のひらの厚さや、後ろ姿から背筋の盛り上がりも確認出来て、さすがピアニストの身体だとも思いました。
いつか、反田さんがオペラを振る時は、ぜひ見に行きたいです。
●ブログ記事『反田家の赤ちゃんは(たぶん)すごい!』https://www.mintpiano.net/blog/106160/
●ブログ記事『反田恭平さんの新刊を読んでみた♪』
https://www.mintpiano.net/blog/68814/
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